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まぬけな奴ほどよく眠る

―オラ、雨間の部落に帰るからよ。ひとりで帰るよ。心配いらねぇ、山道は慣れてるんだ。

陽が暮れると必ずそう言って玄関にいくおばあさんが居たことを、久方ぶりの雨模様で思い出した。去年の今頃は職場の研修で毎日八王子の恩方というところに通っていて、そこで出会った女性だった。恩方は、八王子駅からそう遠くないにも関わらず、「山深い」ということばを初めて認識した場所。夕方になるとあたりいったい霧がはり、山の奥の方がぼうっと赤くなる。この今まで出会ったことのない磁場に、もしかするとと調べたらまさにきだみのるの『気違い部落周遊紀行』の「気違い部落」そのものであった。続編の「にっぽん部落」を借り、きだみのるをとりかこむ恩方の人たちのユーモアのきいた会話に耳を澄ませながら寄り道をするのが楽しみだった。

今日はここ旭川で、偶然にも93歳の女性から「部落」の話を聞いた。といっても意味の違う「部落」だったのだけど、やはりそこには優しいまなざしがあり、橋の下に住まう人たちが目に浮かぶようだった。

―この橋のたもとには養老院があってね、橋の下はすべて侍部落だったんだよ。昼はみんな乞食に出かけて夜になると帰ってくる。侍部落の会長さんは大学出だって言ってたよ。戦後?違う違う。戦争終わったらみんなどこかへ消えたよ。